もみじの研究ノート

駅名標の奥深い世界へようこそ。

議論が公開されないせいで - 維持困難路線の存廃

前回、「日高線転換バスの試験運行」について、詳しい内容が全く見えてこないという話をしました。記事はこちら。原因は、「地元自治体の議論を公開していないこと」またそれが原因となり、「メディアが憶測での報道をせざるを得ないこと」の2つだと思います。これは日高線だけではなく全道的な傾向であり、今回はこのことについて考えていきたいと思います。

 

なぜ存廃議論が公開されないか

前回の続きとして日高線を例に取り上げます。日高線の存廃を巡る議論は、現状なにも公開されていません。ニュースで「今日は日高線の○○の議論を公開で行いました」という話は一度も聞いたことがありません。各自治体の町議会の議論で一部が分かるのみです。

 そのなかで、新冠町議会で「なぜ日高線の存廃を巡る議論を公開しないのか」ということについて議論が行われたことがあります。その際小竹国昭新冠町長(当時)はこのように答えています。

7点目の協議会を公開にすべきとのことですが、本協議会は、今後の政策判断を行うための意見や情報交換を行う場でありまして、議論を深めるためには、非常にデリケートな面での話や、私見も含め公式見解とはならない発言も想定されますので、非公開とすることで良いと考えますし、会議終了後には報道陣の取材に対応し、必要なことは申し上げておりますので、今後も基本的には非公開による対応で良いものと考えております。

 

先ほど申し上げましたけれど、細かい話までいろいろしますし、お互いに相手のこともいろいろ言う訳でございますので、今の時点では公開しない方がスムーズに今後も進んで行きますし、お互いの言いたいことも言えるような場所でないかなと思っていますので、当面は非公開でやりながら、住民の皆さんとは折に触れてそういう意見を聞く場面を作ることができればよいなと思っているところでございます。

 

資料:平成28年第1回定例会 新冠町議会会議録 第3日 (平成28年3月15日)

https://www.niikappu.jp/gyose/gikai/pdf/kaigiroku_teireikai_28_03_15.pdf

ちなみにこの資料には、2016年当時の新冠町長の日高線に関する見解、具体的には「復旧費用はJR・国・道が払うもの。沿線が払う必要などない」「私たちがJRに提案した『利用促進策』の回答を早くくれ」「デリケートな内容や私見も含まれるため、議論は非公開で良い」「赤字問題と復旧は別。苫小牧市などは議論に参加しなくて良い」「これは日高だけの問題ではない。北海道全体で考えてくれ」「仮に廃止しても静内〜様似間では。静内までは残るだろう」などが分かります。

さて、新冠町長は「会議終了後には報道陣の取材に対応し、必要なことは申し上げております」としています。確かに会議終了後には記者会見を行い、主に様似町の町長が応じています。しかし今回取り上げるのは、本当にそこで必要な情報が発表されているのか。そうであれば、下に取り上げるようなことは起こらないのではないか、ということについてです。

 

相次ぐメディアの「誤報

日高線の存廃議論を巡っては、これまでにいくつか「誤報」または結果的に誤りであったというような記事があります。少し振り返ってみます。

日高線の一部廃線容認へ 沿線7町、バス転換前提に

北海道新聞 2016年10月22日

http://web.archive.org/web/20161021221245/http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0329677.html

>昨年1月の高波被害で鵡川―様似間(116キロ)の不通が続いているJR日高線について、沿線の日高管内7町の町長が、代替バスへの転換を前提に、一部廃線を容認することで合意したことが21日分かった。路線維持に伴う多額の費用負担は困難と判断した。11月に開かれるJRと道との沿線自治体協議会で表明し、今後はバスの運行形態やルート、地域振興策などをJRと協議したい考え。

 この報道に対し、後日別の新聞社がこう報じています。

JR北海道の要求に「ノー」 日高線沿線7町長の意見一致

苫小牧民放 2016年10月25日

http://web.archive.org/web/20161110013843/https://www.tomamin.co.jp/20161043985

>一方、一部報道で「代替バスへの転換を前提に、沿線7町が日高線の一部廃線を容認することで合意した」と報じられたことに、7町の首長らは「そのような事実はない」と否定。小竹国昭・新冠町長(日高町村会長)は「次回の協議会会合でも全線復旧を要求するスタンスは変わらない」と強調した。

これは沿線町長も否定する明らかな誤報でした。当時は「バス転換に決まったか~」というような雰囲気だったように記憶しています。

日高線の廃止容認を多数決で決定する前後には。

日高線存廃10月にも判断 鵡川―様似間、5町がバス転換主張

北海道新聞 2019年9月24日

http://archive.fo/V32ed

>今回の会議で結論を出す方針だったが、異論があったため先送りした。次回会議でも意見がまとまらない場合は、多数決で7町としての最終的な結論を出す方針を全会一致で決めた。

 

一方HBC北海道放送では。

JR日高線沿線町長会議「バス転換」で最終調整

HBC 2019年9月24日

http://web.archive.org/web/20190927045732/http://news.hbc.co.jp/0233f6739a456766f297c929c029c261.html

3時間半に及んだ24日の会議では、7町の意見が一致しなかったことから多数決をとり、「バス転換」が多数となりました。今後はそれぞれの町議会でこの方針を容認するか確認したうえで、来月の町長会議で最終決定するということです。

来月の町長会議で最終決定をするというのは一致していますが、今回の協議で多数決をとったのかとっていないのか、結論を先送りしたのかバス転換で最終調整なのか、どちらなのかわかりません。この時点で日高線の存廃議論は覆ることはまずないですし、まあ別にどっちでも大きな影響はないのですが。

また、2019年に日高線の廃止容認を多数決で決定した際、このような報道がなされました。

ウイークリーみんぽう(11月9日~11月16日)

苫小牧民放 2019年11月18日

https://www.tomamin.co.jp/article/news/main/6714/

>7町がJR北海道と合意後、2020年3月をめどに同線区(日高線鵡川〜様似間)は廃止される見通しとなった。

 公開記事ではなくログインしないと閲覧できませんが、札幌市内の図書館で紙面を閲覧し、確かにこのように書いてあったことを確認しています。この記事のみを読むと、2020年3月で日高線が正式に廃止し、バス転換するということになります。実際にはこのようなことは行われませんでした。

 

誤報はその他の線区でも

こうした誤報日高線だけにとどまりません。2つの例を挙げます。1つ目は宗谷本線の恩根内駅の存廃議論。

宗谷線無人5駅 21年春廃止 名寄市美深町が受け入れ 「仕方ない」「寂しい」惜しむ声

北海道新聞 2020年3月26日

https://archive.vn/BbdML

新たに名寄市の北星駅、美深町の恩根内駅、紋穂内駅、豊清水駅、南美深駅の計5駅が来年3月で廃止となることが25日、分かった。名寄市美深町とも地元自治会などに説明し、了承を得たという。周辺住民たちからは「寂しい」「仕方ない」などの声が出ている。

 これに対し、約4カ月後の7月にこのような報道がされています。

宗谷線・恩根内駅 廃止一転存続へ 「通学需要」住民要望実る

北海道新聞 2020年7月28日

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/444400

アーカイブhttp://archive.fo/HlkpV

 >町は同駅の存廃問題について、恩根内自治会の幹部や子育て世帯に説明した上で今年3月、恩根内駅を含む町内の4無人駅の廃止受け入れを決めたとしている。だが恩根内の住民の多くが「報道で駅廃止を知った」として反発。

 結果的に3月時点で「了承を得た」は誤りとなっています。これはメディアが100%悪いわけではありません。しかし、「議論が公開されない」ことが問題の発端であると考え、紹介しました。

また、こんなこともありました。

石北線 無人駅廃止検討など提示

NHK 北海道のニュース 2018年4月23日

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20180423/4189751.html

JR北海道が見直しの対象としている石北線のあり方を考える会合が23日、北見市で開かれ、JR側は利用者が1日30人未満の無人駅の廃…

アーカイブがほとんど残っていないのですが、「一日30人未満」という数字が一時報道されました。30人未満とは、石北線無人駅はほとんどが対象となります。Twitter上では相当ざわついた記憶があります。NHKの「ほっとニュース北海道」で報道され、番組の最後に「3人未満」だったと訂正された記憶があります。これがNHK担当者のミスであったのか、自治体関係者のミスなのかは不明ですが、いずれにせよ議論の情報公開が十分でなかったといえるのではないかと思います。

 

メディアの憶測による報道

北海道新聞をはじめ、JR北海道に関する報道は、「これって憶測なんじゃないの?」という報道も多いです。例を挙げます。

「地域の足」黄信号 通学生、高齢者ら激減 減便・廃線懸念も

北海道新聞 どうしん電子版 2020年5月8日

 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/418956

>一方、JRは新型コロナウイルスの感染予防を理由に、札沼線北海道医療大学新十津川間の最終運行日を5月6日から4月17日に急きょ前倒しした。路線維持困難の沿線自治体は、こうしたJRの対応が、減便やバス転換への議論を加速させるのではないかとの懸念を強める。

 上川管内南富良野町の担当者は、16年の台風被害で運休が続き、JRが廃止とバス転換を提案した根室線富良野新得間について「JRの経営状況にかかわらず、廃止議論の前に復旧という主張は変わらない」と強調する。同じくJRがバス転換を求める留萌線深川―留萌間に関し、空知管内の沿線自治体幹部は「新型コロナウイルスを理由とした路線の切り捨てが起きないよう、国はJRにくぎを刺してほしい」と求める。

道内にはこのように、路線が自然災害や事故の被害を受けた際、「廃線をもくろんでいるのではないか」などと過剰に報道されることが多いと感じています。まぁ日高線がその例なのでそういう考え方になるのは納得するのですが、これまで自治体等の支援を受け維持していく方向の線区(黄色線区)では、自然災害や事故が発生した際もすべて路線を自費で復旧させています。そのことを踏まえず「これはこのまま廃線ではないか??」というのは憶測なのです。

JR花咲線厚床駅2番線廃止 ダイヤ改正で減便 にぎわい今は昔「さみしい」

北海道新聞 2016年6月21日

https://web.archive.org/web/20160621120551/http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/area/doto/1-0284313.html

JR花咲線厚床駅は2番線の廃止によって、1番線が残るだけとなった。

一見正しいように見えるこの報道ですが、鉄道ファンの間では「休止」ではないかとされています。ただし、信号機類や線路、ホームや駅名標なども含めてすべて残されていること、JR北海道の「移動等円滑化取組計画書(令和元年度)」に厚床駅のホーム数が「2」と記載されていることなどから、「廃止」はされていないものと思われます。憶測に憶測で反論してもアレですが・・・とりあえず、この記事書いた人はJRに取材をしていませんね? 適当に「廃止」と表現しましたね? ということは言えると思います。

クリスタルエクスプレス 迫る最終列車 富良野に惜しむファン続々

北海道新聞 2019年9月19日

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/345987

>全156席の「クリスタル」は、列車両端の1、4号車の運転席の下が展望客室になっている。

ん??それは何年前の情報かな?????

まあこんな感じです。クリスタルエクスプレスの記事で普段からこんな内容を書く新聞社、そのほかの内容も不正確なのではと思ってしまいますよね。

先ほど紹介した「2020年3月をめどに同線区(日高線鵡川〜様似間)は廃止される見通しとなった」という文章も、記者会見の内容から、鉄道にそこまで詳しくない記者がなんとなく憶測で書いた文章のように感じます。

 

なぜ憶測による報道が多いのか

これも議論が公開されていないことが要因だと思います。日高線でも、議論の後に公開されるわずかな内容を膨らませて記事にするような状態が続いています。情報が少なすぎるんですよね。記者も十分な情報を手に入れるためにバンバン質問してほしいとも思いますが、議論が公開されていれば、こんな状態にはならないわけです。その意味で、憶測をせざるを得ない新聞記者はかわいそうだとも思います。

 

もっと議論の公開を

さて、いろいろ見てきましたが、結論としては 議 論 を 公 開 せ よ というただ一つに収まるような気がしています。議論の公開が不十分であることから、新聞社は憶測による報道をせざるを得ません。地元住民を含めた一般市民は、その憶測が入った正確性に欠けている可能性のある報道が「第一報」となります。そして、その報道以上のことはいつまでたっても情報が入ってこないのです。

 

新聞は存廃議論の唯一の情報源

JRの存廃議論が新聞報道でしか入ってこない現状。これは鉄道ファンも地元住民も、そしてなんと地元の町議会議員なども同じなんですね。稚内市の市議会議員は「JR 宗谷線稚内市名寄市など7市町にある13の無人駅が来春に廃止になるという報道がありました。このニュース記事によると・・・」などと発言していたり、新冠町の町議会議員も「JRのこの問題については、私のこの情報のほとんどは北海道新聞であります。」と発言しています。町議会議員であっても、新聞報道以外に情報源がないというのは個人的には驚きです。

ここからわかること。それだけ新聞報道は貴重な情報源であり、その報道の正確性は大切であるということです。先日一転存続した恩根内駅も、3月時点での報道でもっとしっかりと取材していれば、その時点で何らかの動きがあったかもしれません。結果的に存続になったのは良かったですが、もし3月の報道のせいで存続に転じる機会が失われていたらどうだったでしょうか。今後、このようなことを繰り返さないでほしいのです。

私は北海道新聞について、「JR北海道の報道、もはや道新に任せられぬ」とさえ思っていますが、存廃議論の詳細を伝えてくれる数少ない貴重な報道機関であることもまた確かです。憶測をやめて、誇張表現をやめて、正確な報道をする報道機関へと生まれ変わってほしいです。ようやく最近は「なんだこれ」という記事はさすがに減ってきましたかね。

今後も議論は公開されない状況が続くでしょう。そのとき、貴重な情報源となる新聞報道を、もっと正確なものにしてほしいと思います。また、報道の正確性を高めるためにも、自治体は積極的に「議論の公開」をしてほしいと思います。

 

おわりに

「存廃を巡る議論が公開されていない」→「新聞記者は憶測による報道をせざるを得ない」→「誤報などが相次ぐ」

「存廃を巡る議論が公開されていない」→「一般市民をはじめ、町議会議員でも(不正確なことがある)新聞でしか情報が得られない」→「今どういう状況なのかがよくわからない」

今はこのような状態であると考えています。

議論を公開せよ。これに尽きます。そしてわかりやすいところに公開するか、わかりやすく情報にアクセスできるよう案内を充実させてほしいですね。今公開されている情報は町のホームページの奥深くであることがほとんどです。探すのが本当に大変。

議論が公開されていない今の現状。最も困っているのは地域住民です。「JR日高線を守る会」は存廃議論の公開を求めていますが、これは本当にその通りだと思います。今後の路線の行方が密室の議論で進められている現状は変えなければならないと思います。