ローカル線の利用促進
近年、単独で維持することが困難な鉄道路線の活性化として様々な取り組みが行われています。それらの取り組みが「アクションプランの取り組み状況」としてまとめられており、私たちも簡単に知ることができます。がんばってはいるものの、正直なところ、「これだけじゃ利用増にはつながらないよなぁ」というものも多いと感じています。が、JR北海道は「順調に取り組みが進んでいる」として、沿線自治体の取り組みを高く評価しています。JRにとって、自治体には今までしてこなかった特別な協力をお願いしているという事情もあり、安易に不十分だなどとは言えない事情があるのでしょう。正直、高く評価している場合じゃないよな・・・という路線もあるのも正直なところです。ちなみに、学園都市線や日高線などの赤線区では、これまでの自治体の利用促進の取り組みに感謝するとしつつ、抜本的な利用増にはつながらない、と厳しい評価をしたこともあったはずです。
新たな観光列車を運行したい!
ところで、沿線自治体での協議や、鉄道ファンでの議論の中で、魅力的な観光列車を運行してみてはどうか、というような提案がよくされます。私もたまに提案します。もしその観光列車を運行して大成功すれば、収支改善とはいかなくてもその路線の価値は高まるわけですが、いや、その観光列車、前にやったことありますよ・・・?というのが、今回の内容です。
私はこれらの列車が運行したときに生まれていないという列車もありますし、実際に乗った列車はほとんどありません。ですので、書けることは本や新聞などで調べたことのみとなりますが、得られる情報は頑張って得たつもりです。
- 風っこそうやがすごかった!JR北海道もああいう車両を作るべき!
実際にこういう声はあったような気がします。ノロッコ号をお忘れではありませんか?
そのうえで、現在運行されているノロッコ号車両も、やがて老朽化する時期がやってきます。その際に「風っこ」車両を参考にするのはありかもしれません。
- 全道中にノロッコ号を走らせればよいのでは?
さすがに全道中にという人は聞いたことがありませんが、○○線のここの区間はノロッコ号に向いているよねという声はたまに聞きます。
実際、ノロッコ号は1990年代後半から2000年代の初めにかけて、全道中で運行されていました。以下のサイトに詳しく記載されています。
ノロッコ号はどれくらいある? – 北海道ファンマガジンhttps://hokkaidofan.com/norokko/
現在毎年運行されている「富良野・美瑛ノロッコ号」や2016年まで毎年運行されていた「流氷ノロッコ号」も、1990年代に数日間だけ試験的に運行されたものが好評であり、のちに毎年運転になった列車です。その他の列車が数年で打ち切られたということは、そういうことです。
- 札幌への直通列車を作ってほしい!
これは日高線で実際にあった要望です。これに対し、JRは261系気動車を新製した場合の経費を試算していました。日高線に261系が走るのが全く想像できませんね・・・というのは置いておいて、これは根室本線(花咲線)で行われたことがあります。2001年~2005年の夏季に行われた、「特急まりも」の延長運転です。花咲線の快速・普通列車に特急形車両が入るのは今となっては考えられないことで、きっと当時もそうだったはずです。手元に当時の時刻表がないので、どのくらいの時間短縮が図られたかは不明ですが、このような直通列車は所要時間よりも、「札幌まで直通していること」が(なぜか)魅力です。当時地元にどう迎えられたかはわかりませんが、Wikipediaには「札幌まで通しで乗る利用客の減少」が原因で、2006年以降は取りやめられたと記載されています。
また、宗谷線では、札幌直通の特急列車の復活を求める運動が続いています。現実的にみればそこまで利便性の差はないのでは、と思ってしまいますが、「札幌に直通する」という心理的な差は踏まえるべきなのかもしれません。
- SLを運行すればよいのでは?
JR北海道のSLには毎年恒例で運行されたもの(ニセコ号、函館大沼号、冬の湿原号)とその年限定で運行されるもの(みなと室蘭号、夕張応援号、オホーツク号など)の2種類があると思われ、かつて留萌線では「SLすずらん号」が運行されていました。すずらん号は前者でした。運行開始当初は「これを機に留萌本線を観光路線として活性化していきます」と意気込み、蒸気機関車を復活させて大規模に運転されていましたが、年々乗客は減少していき、2006年に運行を終了しました。
- いつもの特急列車を観光列車にしたらよいのでは?
ライラック旭山動物園号。近年始まった取り組みです。そのほか、宗谷線でいつもの特急列車をリゾート特急で運転し、「まんぷくサロベツ号」を運転したことがありました。車内カウンターでは特産品の販売が行われ、地元も販売で協力したのではないかと思います。いつの間にかなくなってしまいました。特産品の販売がないサロベツのノスレ代走を「くうふくサロベツ」と呼んだのも、今は昔の話でしょうか。
- いつもの普通列車を観光列車にしたらよいのでは?
花咲線で現在取り組みが行われています。見どころでの徐行運転、音声ガイド、ご当地弁当を楽しめる施策などが実施されています。また、一部列車を根室市の負担で2両編成にする取り組みも行われ、今年(2020年)で2年目です。今年は「森の恵み」が増結され、車内にはテーブルが設置されていると報道されていました。なお、この施策の中で、駅弁を事前に予約すると駅のホームで受け取りができるサービスがありますが、日によって駅弁販売業者の担当者が現れず、弁当を手に入れられなかったというトラブルも聞きます。
また、過去には釧網線で「摩周&川湯温泉足湯めぐり号」が運行されたことがあります。川湯温泉~緑間の普通列車を増発し、停車時間に足湯が楽しめるという列車です。ちなみに当時、JR内では「足湯のために列車の停車時間を延長するとはいかがなものか」という否定的な意見もあったと報道されていたような気がします。
- 普通列車を改造して観光列車にしたらよいのでは?
かつて日高線で、当時すでに老朽化が著しかったキハ130を改造し、「日高ポニー号」が運行されたことがあります。車内では沿線の観光ガイドが乗車。見どころでは徐行運転なども行ったと聞きます。車内にはテーブルや木馬が置かれていました。インターネットでこの列車を検索すると、最終運行の写真ばかり出てきます。またその中で「普段からこれくらい乗っていれば・・・」という地元の方の声もあり、あまり繁盛しなかった列車だったのではないかと思います。現在では釧網線にて「流氷物語号」が運転されています。当初、JR内では「普通列車を改造したって誰も乗らないだろう」というような意見もあったようです。
- いつもの普通列車を観光車両で運転すればよいのでは?
かつての「くしろ湿原紅葉ノロッコ号」や、「流氷ノロッコ号」の一部列車は、釧網線で毎日運転されていた普通列車を置き換える形で運転されていました。そのため、通過駅を基本的に設けず、原則として各駅に停車していました。日高線の臨時快速「優駿浪漫号」もこのタイプです。観光列車の運転形態の一つと言えるでしょうか。
- 無人駅へ向かう観光列車を運転すればよいのでは?
かつて1999年ごろ、宗谷本線に「サロベツトロッコ号」が運転されていました。この列車は普通列車に併結され、抜海~南稚内のみ、トロッコ車両からの展望を楽しめる車両であったほか、「抜海行き」として、抜海駅での下車・観光を楽しむことができるダイヤとしても運行されました。また、現在の「くしろ湿原ノロッコ号」も、釧路湿原・細岡・塘路など、広い意味で無人駅を目的地として運行される列車と言えます。
- 本州で走っている豪華列車を道内でも運行すればよいのでは?
昨年ロイヤルエクスプレスが運行されました。ですが、過去にも似たようなことをやっていました。「北斗星まりも」(2000年?~2001年)「北斗星利尻」(2002年)などです。当時北斗星の客車の所属がどうなっていたのか、詳しいことは分かりませんが、本州とを結ぶ豪華列車の車両を使って、道内で観光列車を運転した例といえます。これらは数年のみの運行でした。また、北斗星車両を使った北海道一周列車などもたびたび運行されました。
また、上野~札幌を結ぶ北斗星の派生列車として、小樽・トマム・新得まで足を延ばす運用が行われたこともあり、これは10年弱程度続いたこともありました。
- 車内でご飯が食べられる観光列車を運行すればよいのでは?
バーベキュー号。当時は苗穂工場の自信作だったようですね。当時の新聞報道にも大きな期待が込められていました。登場当時は函館地区などで運転し、当時観光施設として力を入れていた「流山温泉行き」などもあったようです。現在廃止されたのは車両の老朽化という意味合いが大きいでしょうか。
- 列車に自転車を持ち込める観光列車を運行すればよいのでは?
かつて1997年ころ、函館本線白石―ニセコ間で、自転車を持ち込める快速列車「サイクリングトレイン」が運行されたことがあります。車両にはロングシートで車内に広いスペースを確保できるキハ201系が使用されました。(個人的にはこの列車が、キハ201系の特徴を一番生かした列車だと思っています)また、道内の他の3つの区間でもキハ40などを使用し、「サイクリングトレイン」が運行されたことがあります。
また、2010年にはこんな列車が運行されていました。キハ40が自転車積み込み用に改造されている写真が掲載されています。
列車の旅とサイクリング!臨時列車「夏のニセコ満喫号」運転!
http://web.archive.org/web/20111020170147/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/presstop_2010_2.html
- 列車内にスキーを持ち込める観光列車を運行すればよいのでは?
ニセコエクスプレスがその例です。同列車のスキー置き場は、夏は冷房装置、冬はスキーを置くことができるスペースとして活用されていました。引退の際はその特殊な冷房装置の故障がネックとなったようですが、スペースの使い方としてはとてもうまいと思います。臨時特急「ニセコスキーエクスプレス」は冬季に毎日運転されていたものの、2010年ころに全くなくなっています。ニセコエクスプレスの車両を保存するクラウドファンディングが行われていた際、「ニセコスキーエクスプレスは毎年冬恒例の列車であり、地元住民の利用も多かった」という一文がありました。どのくらいの利用があったのかは気になります。
- 貸切列車をもっとたくさん運行すればよいのでは?
かつて、旭川支社では「ノロッコ号」の貸切運転を広く一般に向けて募集したことがありました。旭川~塩狩間の「塩狩峠さくらノロッコ」そして「富良野・美瑛ノロッコ号」で販売され、1名からの利用も可能でした。費用は高額ですが・・・
期間限定特別企画 今年は!? 塩狩峠さくらノロッコ号 貸切運転できます!
http://web.archive.org/web/20170120081001/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2005/050412.pdf
- 新千歳空港と各地を結ぶ臨時列車を運行すればよいのでは?
かつて、ニセコやフラノへ向かうリゾート列車や「スキーエクスプレス」などの特急列車は、新千歳空港駅への乗り入れが行われていました。線路容量などの問題があり、近年は行われていません。
- 北海道を一周するような観光列車を運行すればよいのでは?
かつて1994年ころに「リゾート北海道」号が新千歳空港→旭川→北見→釧路→札幌と北海道を3日間かけて一周する観光列車として運行されていました。また、寝台特急北斗星の車両を使った北海道一周列車などもたびたび運行されました。
また今年と来年、東急電鉄などとタイアップした豪華観光列車「ロイヤルエクスプレス」が北海道にて運行されます。今年が初めての取り組みかと思われがちな気がしますが、かつて逆回りで走ったことがあったんですね。豪華さなどは異なりますが。
- 観光列車のノウハウがある他の企業が観光列車を運行すればよいのでは?
近年、JR北海道は線路を開放し、外部の事業者を世界から募集し、観光列車を運行すればよいのではないかという声をたまに耳にします。もちろんそれは一つの方法ですし、実際に行われたら面白そうですが、まったく新しい提案というわけではないように思います。
1985年に登場した「アルファコンチネンタルエクスプレス」は、国鉄が特別車両を開発し、トマムにあるアルファリゾートと、新得にあるサホロリゾートが列車を貸切運行するという、当時の国鉄としてはかなり珍しく斬新な運行形態だった列車です。現在で言うと、ニセコにあるスキーリゾートが「自分たちがお金を出すから、札幌~倶知安間で観光列車を運行してくれ」というような感じでしょうか。しかし現在、ニセコへの外国人観光客の輸送はほとんどバスに移行しています。そのようなムードは全くありません。
また、「ANAビッグスニーカートレイン」というのもありました。今でいえばあのピンク色の261系に「Peach」のロゴをつけて運行するような雰囲気でしょうか。
- 全道各地でイベントを行い、その日だけ臨時列車を運行すればよいのでは?
ヘルシーウォーキング号。8両編成の特急形車両で運行される臨時列車。すごいですね。なお、日高線の活性化策の議論では、JR北海道の担当者が「イベントに合わせてヘルシーウォーキング号などの臨時列車を運行してきたが、効果は限定的」と述べたと報道されていました。
また、「富良野音楽祭」に合わせて以下のような列車が運転されたこともあります。
「POINT GREEN! 富良野音楽祭2007」開催に合わせて臨時特急列車を運転します!
http://web.archive.org/web/20150624141331/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2007/070724-5.pdf
ほかには、室蘭でコンサドーレ札幌の試合が行われた際の「コンサドーレ号」や、夕張市で国際映画祭が開催された際の臨時列車などが挙げられます。
- イベント時に寝台列車を運転すればよいのでは?
寝台列車ではありませんが、かつて2009年~2011年ごろにかけて、札幌で野外ロックフェスティバルが開催された際、函館発札幌行きの夜行急行列車「RSR号」が運転されたことがあります。キハ183系、全車自由席で運転されました。
「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO」開催にあわせて臨時急行「RSR号」を運転します
http://web.archive.org/web/20131112013102/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2010/100709-1.pdf
利用は少なく、急行はまなすの代替となる夜行列車が設定されなかった一因ではないかともいわれます。
- 臨時列車の運行が無理なら、イベントの日に特急列車などを停めよう!
「夕張もみじ祭り」の開催に合わせて特急列車が臨時停車します!
http://web.archive.org/web/20150624141209/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2007/070926-2.pdf
昔からやっています。今はそれほど行われていませんね。丸瀬布森林公園いこいの森の「雨宮21号」の特別運行の際に、丸瀬布への臨時停車が行われた例くらいでしょうか。ただし、地元の中学生などが修学旅行で列車に乗車する際、琴似、白石などの駅に臨時停車することがあります。また利別などでも行われることがあるようです。昔は、江別駅で「えべつやきもの市」が開催される際、江別駅に特急が臨時停車した、特急「オホーツク」などが修学旅行客を乗せて小樽まで行っていた、という話も聞きますが、今はありませんね。
- 空港と空港をつなぐ列車を運転するとよいのでは?
何っ!?直行列車構想とな!? pic.twitter.com/DWrqyS3e6w
— TJライナー (@donanbus2809) 2021年1月3日
先日道新に「旭川と新千歳空港を結ぶ直通列車」に関する話題が報道されていました。新千歳空港~追分~岩見沢~旭川を結ぶ、まったく新しい列車というわけです。追分~岩見沢13分!?とか、新千歳空港駅の煙ガーなどと話題になりましたが、まったく新しいわけではなく、1990年代の「フラノエクスプレス」などは同じルートで運行していました。
さらに、1991年に運行を開始した「はこだてエクスプレス」も同じような列車でした。当時北海道第2の空港であった函館空港と札幌、そして大沼や登別などの観光地を結ぶリゾート列車として計画。「ノースレインボーエクスプレス」もそのために新製した車両です。実際には景気後退などの影響もあり、数年でこの形での運行は終わってしまいました。
おわりに
JR北海道は観光列車のノウハウがない、などとよく言われますが、そんなことはありません。過去には先進的過ぎるほどたくさんの列車を運行していたと思います。調べればまだまだあります。その歴史が今は忘れ去られているということは、歴史が正しく伝わっていないのではないかな・・・と思うところです。「原生花園スタンディングトレイン」「天塩川紅葉ノロッコ号」「オホーツク流氷号」「SL根室号」「リゾートみなみふらの号」などなど、列車名を挙げればきりがありません。
今回紹介した列車をもう一度運行してもダメだ。別の列車を考えろというわけではありません。新たな観光列車を運行する際、過去に同じような列車があったのかどうかを調べ、その時何がよくて何が悪くて、なぜ現在まで運行されなかったのか。ということを調べ、過去の歴史から学ぶ。これが大切なのではないかと思います。
「ライラック旭山動物園号」「ロイヤルエクスプレス」「花咲線のいつもの列車で観光列車」などは、過去に似たような列車が運転されたことがあります。この先新たに生まれるかもしれない観光列車も、「昔どこかで走ってたのと似たようなもの」である可能性は高いです。その時、「前にやって失敗したんだからダメだ」ではなく、前にやって失敗したのはなぜか? 今回はどうすればいいか? ということをしっかり検討することが必要だと思います。
ちなみにこれは路線の存廃でも同じようなことが言えます。深名線廃止で叫ばれたことと今叫んでいることが変わらないなぁとか、国鉄末期の新聞記事を調べても、そう思うことばかりです。過去の歴史を振り返らずに昔とおんなじことを言っていても、鉄道は残らないよなぁと思ってしまいます。