もみじの研究ノート

駅名標の奥深い世界へようこそ。

日高線と留萌線の部分存続は、地域に最適な公共交通なのか

日高線の廃止があと2ヶ月弱、留萌線では石狩沼田、または恵比島までの存続を巡って駆け引きが続いています。今回は、JR北海道のローカル線を「区間で区切って存廃を考える」ことに関して、考えていきたいと思います。

 

単独維持困難路線の「区間

2016年(いや、もう5年前なんですね・・・)に単独維持困難路線が発表された際、路線全線で維持困難だとされた線区と、路線の一部分が維持困難とされた線区がありました。

全線で「維持困難」

個人的には全線で「維持困難」

路線の一部が「維持困難」

「個人的には全線で」というのは、個人的にその区間とそれ以外の区間は線区の特徴が全く異なり、そもそも本当の路線名も変えたほうがいいのではと思っているような区間を指します。

これについて、一部の自治体からは「そのように区切らないでくれ」というような意見が出ました。記憶にあるのは宗谷線で、「宗谷線稚内から旭川までで一つの路線であり、南北で区切られたのは遺憾だ」という市長の声がありました。そして、「石狩沼田までは基準を上回っている」「日高門別までの存続を」と訴えた地域も、この区切り方に関して疑問を持った地域(町長)だと言えます。

ちなみに2016年のこのころには「札幌〜釧路間の特急が帯広で打ち切りになるのでは」というような記事が釧路の新聞に載ったりもしました。まあ、そのような危機感は少し持っておく必要はあるとは言え、どうも報道機関も根拠が乏しいよな、と思います。

そもそも「路線名」というのも曖昧なものであり、小樽〜旭川間が「函館本線」なのは普通に考えると違和感しかないですし、路線名マジックによって残った江差線、上砂川支線、宗谷線音威子府稚内間、消えた松前線、天北線などなど。路線名にとらわれずに細かく見ていくことが大事です。

 

鵡川駅石狩沼田駅

本題です。この2つの駅は、どちらもこの駅を境に乗客が少なくなるという主要駅です。ふるさと銀河線で言えば置戸みたいな感じです(通じる人少ない)

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鵡川駅2番線の駅名標。枠が富内線春日駅などと似ている。廃線とともにホーム廃止・撤去される可能性もある。(2016年5月)

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石狩沼田駅2番線の駅名標。使用されていないホームながら近年枠が更新され、現在この姿ではなくなっている。(2017年8月)

データで見てみます。日高線については、苫小牧〜鵡川間のスクールバスが廃止され、どう区間の通学客が大幅に増加する前の平成29年度のデータ、留萌線については最新のデータを示します。

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出典はこちら。浜田浦〜鵡川間「378」が、鵡川〜汐見間が線路被害前では「278」に、線路被害後は「145」になっています。

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出典はこちら。北秩父別〜石狩沼田「203」が、石狩沼田〜真布間「95」になります。

 

日高線の場合〜日高門別部分復旧案

日高線は、苫小牧〜鵡川間が、自治体などの支援により存続を目指す黄色線区に、鵡川〜様似間が、JR目線では「高波による線路被害の復旧費用・復旧後の設備維持費用が単独で負担できず、沿線自治体からの協力も得られなかった」ため、自治体目線では「(うまく表現できない・・・コロナ禍で今廃線にしないと協力金が得られないため??)」長い議論の末に廃線・バス転換に合意しています。

日高線は2015年の高波による線路被害により、鵡川での折り返し運転を続けています。当初大きな被害を受けたのは厚賀〜大狩部間であり、それ以外の区間は運行できる状態でした。データにはあまり現れていませんが、沿線の中では大きな街があり「主要駅」と言える富川や日高門別もありますが、そこまでの運行は行われませんでした。

この大きな理由は、信号設備だと言います。鵡川日高門別間の復旧には、以下の費用がかかると試算されています。

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出典はこちらの3ページ。

沿線自治体のうち、主に日高門別駅がある日高町日高門別までの鉄道復旧を主張。上の金額はJRによる「復旧断念」のプレスリリースの前後で検討されて試算されたものです。「大きな被害がなかった鵡川駅 - 日高門別駅間の部分負担なら話は違ってくる」と初めて地元負担に前向きな姿勢を(一時的に?)示し、比較的最後まで検討されたものの、2019年11月12日、多数決により断念されました。

部分復旧を求めた主な理由としては「線路の被害が少ないこと」「輸送密度が200人を上回っていること」、部分復旧を諦めた主な背景には「(わが町に列車が走らないのに)費用負担は町民の理解が得られない」「毎年多額の費用負担は厳しい」「日高門別まで復旧しても私の町にメリットはない」「全線バスに転換してもいいのでは」といった町長の発言が挙げられます。

ここで疑問なのが、なぜ日高門別までの部分復旧を求めたのか、そしてなぜ断念したのか、「地域に最適な公共交通」を探る上での根拠が見当たらないんですよね。いや、もはや疑問でもありませんけど。結局わが町にメリットがあるから日高町日高門別まで、浦河町は浦河までだと中途半端だから全線とか言ってたのかと。

 

日高線鵡川まで残す理由は?

日高線の苫小牧〜鵡川間は、自治体などの支援により存続を目指す黄色線区に指定されています。そのため、廃線議論というようなものは維持困難線区の発表前を含め、これまで一度も行われていません。

苫小牧〜鵡川間のJR側からの説明では、「利用が少ない」「湿地帯の線路維持に苦慮している」「日常の足として利用されている」くらいしか具体的な説明がありません。

この区間では利用促進の取り組みが行われており、個人的に特に目立つものは、苫小牧〜鵡川間のスクールバスの廃止と、苫小牧市などで開催されるイベントに際し、公共交通の利用を呼びかけるポスターです。他にはイベント開催時に「道央 花の恵み号」が運転されることがあります。特にスクールバスで通学していた高校生が列車通学となったことで、黄色線区中では最大の利用率アップとなっているはずです。

ここで疑問になるのが、なぜ鵡川まで残るのか、残る区間がなぜ鵡川までなのかです。

確かに鵡川は主要駅であり、ここを境に乗客は減ります。ただし、現在は鵡川までの高校生利用が増え、鵡川以遠がバス代行となったことで差が顕著になっていますが、高波災害前の差は4分の1〜3分の1程度です。

残りは消極的な理由です。むかわ町胆振振興局であることです。振興局というのは、ただの鉄オタ的には苫小牧から様似までで一つの路線なので気付きにくいんですが、以外にも通学生や地元住民が用事や買い物に行く「街」が違うんですね。比較的分かりやすい例が釧網線で、振興局と峠をまたぐ緑〜川湯温泉間は特に乗客も本数も少ない区間です。日高に峠はないものの、似たような傾向があるのではないかと感じます。また、路線の存廃議論においても鵡川〜様似間は「日高」の問題であり、胆振地方との連携がそれほどなされていなかったのではと感じます。

そして何より、JRの折り返し設備の都合です。例えば日高門別駅富川駅に折り返し設備があれば、その駅で折り返していたはずです。私は信号設備に詳しくはないのですが、日高門別で折り返しをするためだけに1億円が必要になるそうです。私にはちょっと不可解なのですが、決して安い金額ではないのは確かです。

(ちなみにこの折り返しに関して、スタフ閉塞を使えば0円じゃないかと主張する電車博士(でんぐるま・ひろし)や地元住民がいました。ただし列車の運行には踏切を遮断する設備が必要だなとか、列車のトラブル時に指令所へ連絡する必要があるよなとか、そのくらいの想像は誰でもしてほしいなと思います)

 

鵡川までの日高本線は不要?

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これ以外のまともな情報が全くないので、道新の路線図(こちら)で。全く詳細が明らかにならない日高線廃止代替バスですが、すでにルートと時刻は決まっているようですね。「試験運行」と称されそうな1年目の運行がかなり適当なものにならないか、心配しています。

ここで気になることは、苫小牧〜鵡川間の鉄道の気配がないことです。まあバスの路線図なので当たり前ですし、廃線議論中からなんとなくわかっていたことではありました。この路線図だけを見ると「鵡川行き」のバスは運行されないようです。一方、日高方面から苫小牧に行くバスは、新冠から高速道路経由で沼ノ端・苫小牧へ行くバス、鵡川駅から沼ノ端駅を通り苫小牧へ行くバス、鵡川駅から直行で苫小牧へ行くバスの3種類があります。これは何を意味するのかというと、苫小牧〜鵡川間の鉄道は、日高にとって不便で不要であるということです。

 

日高の人が乗らない日高線は存続できるか

日高線苫小牧〜鵡川間には、様似方面からの客が一定程度乗車している印象を受けます。今でも、代行バスに乗車していた人が鵡川でごそっと消えるなんてことはない印象です。これがバス転換後、一切なくなる可能性があります。「378」と「278」を単純に引くと100。令和元年度のデータでは、「466」を「119」で引いて「347」です。苫小牧〜鵡川間では、日高からの乗客がごそっと減る可能性を考えて、今後の方針を決めなければならないんですね。

日高線の廃止反対運動にあたっては、観光客の呼び込みに必要だとか、インバウンドを送り込むんだという意見が多数上がっていました。鵡川〜様似間の廃線後も、「日高へのバスは苫小牧からの乗車が便利です!」という宣伝を大々的にしない場合、鵡川まで鉄道でやってくる客もいるはずです。その客をどう誘導するのか、ダイヤは乗り継ぎを考慮しているのか、疑問が残ります。もし鵡川駅で案内が不足したまま放置するようなことがあれば、もうあの観光客観光客〜〜の反対運動はなんだったのかって感じですね。どうなるでしょうか。

また今回、鵡川〜苫小牧間には3種類の交通機関が平行することになります。鉄道とバスが相互に客を奪い合う関係とならないか、とても心配です。

このような理由から、私は今回苫小牧〜鵡川間が存続すること、特にこの「区間」の線引きについて、「地域に最適な公共交通」の考え方が重視されていないのではないかと感じています。仮に線路災害がなくても、同じ区間で線引きしていたでしょうか。そして、日高の人が日高線を使えるような残し方があったのではないか、その一つに日高門別部分復旧案はある程度有効ではなかったのか、と。もちろん日高は全部バスなんだ。鵡川で乗り換えるのはめんどくさいという結論に至ったなら、それでいいです。ただし、その場合の「苫小牧〜鵡川間」については、逆に廃止を要請するなど思い切った検討もしたほうがよかったのではないかと思います。

 

留萌線を沼田町まで残す理由は?

さて、留萌線です。初期には議論を拒否していたこの線区は、議論開始後早々に留萌市が存続を断念し、沼田町・秩父別町深川市が「沼田町までの存続」を目指して協議しています。存続にあたって、沿線自治体は列車の減便や無人駅の廃止で経費を削減するよう求めています。これに対しJR北海道は、早速2021年3月のダイヤ改正で列車3本を減便する方針を示していますし、存続要望区間(深川〜恵比島)にある無人駅6駅の廃止を計画しています(笑)

さて、この沼田町まで残す存続案は、石狩沼田までと恵比島までの2種類が存在します。

なぜ留萌線を沼田町まで残すのか。理由としては「高校生の通学に必要」「輸送密度が200人を上回っている」などを挙げています。また、恵比島まで残す理由は、報道では「すずらんのロケ地である」「通学や通院に利用している町民がいる」ことが紹介されています(存続の根拠だとは言っていない)一方市議会では町長は「恵比島を起点とする区間の存続を目指す」としか答弁しておらず、ただ単に沼田町内の全駅を残したいだけなのではという気しかしません。

 

恵比島までの留萌本線を生かすには

私は、本当に地域にその覚悟があり、かつ地域に最適な公共交通機関を整備するのならば、恵比島までの存続が良いと思っています。

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沿岸バス・道北バスの平行バス路線図(こちらより)です。途中、秩父別〜恵比島間がJRとは別のルートを通ります。このため、恵比島駅は両者の交通結節点にできる可能性があります。

と思ったら・・・

峠 下 じ ゃ ん

ごめんなさい。私の「恵比島交通結節点構想」はこれで崩壊しました。いやぁ、なんか感覚が鈍りましたわ・・・

本当は、恵比島駅を留萌方面のバスとの乗り換え駅にして、恵比島〜旭川間のバス、特に快速便は廃止し、JRに乗り換えてもらう。そして旭川まで直通運転でもできればいいかなぁなんて考えていました。このことをやるには峠下まで存続しないとできないんですね。峠で明らかに維持費がかかりそうな区間だし、留萌市に入るし。実現可能性は極めて低そうです。こりゃ恵比島まで鉄道を存続する意味はないわ。すずらん?SL数年間しか成功してません。

 

途中まで鉄道を残すのならば

しかし言いたいことは変わりません。鉄道を残すなら、留萌を目指す乗客にも鉄道を使ってもらうことが必要です。宗谷特急や福住のバスなどの事例から「のりかえ」に抵抗を持つ利用者は明らかに多く、鉄道と対面にする、冬季間は移動ルートに雪のない環境を整えるなど、最大限の利便性向上が不可欠かと思います。現在碧水を通る路線バスのルートは、基本的に石狩沼田経由か恵比島・石狩沼田経由に変えるしかありません。このようなバスルートの変更は浜中町霧多布などで見られますが、碧水は集落を形成しており、バスルートの変更は慎重に考えるべきかもしれません。バスルートの変更や、石狩沼田〜旭川間のバス便数の減少により、著しく利便が損なわれる地域があれば、デマンドバスや仮乗降場の設置も考える必要があるかもしれません。留萌の人にとっては、恵比島や石狩沼田で乗り換えることは、まるで幾寅の東鹿越のりかえのようだと感じる人もいるかもしれません。

このように、鉄道を残すのならば今の交通網を抜本的に見直す必要があります。そうでないと鉄道利用は増えませんし、そうして無理矢理利用者を増やして維持するのが良い選択なんですか?ということです。

日高線留萌線では規模が違うので、前者の苫小牧〜鵡川間では、日高の人が使う見込みもないのに存続しますし、留萌線は「日高線でもそういう区間はある」などと言って廃止方針。なんか変だなぁと思います。日高線鵡川に振興局の境があり、留萌線は恵比島に振興局の境があるんですね。そしてご存知、頑なに鉄道鉄道の一点。鉄道である理由が何があるんでしょうか?バスじゃダメなんでしょうか? 自分たちの地方だけではなく路線全体を見て、鉄道だけでなくバス見て、地域にとって最適な公共交通機関とは何かを、早く考えてほしいと思います。鈴木知事が言う「俯瞰的に見る」ことが、「地域」においても「交通機関」においても全くできていないのです。