もみじの研究ノート

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JR社員の感染による、山線の大規模運休を振り返る

はじめに

この記事は、JR北海道の社員が新型コロナウイルスに感染したことを非難するものではありません。また、列車に多数の運休が発生したことそのものを非難するものでもありません。どちらも仕方のないことです。主に、多数の運休が発生したことについて、対外的に、利用客にどう説明したかを取り上げ、考える記事です。2回に分けて掲載します。

 

異例の事態

先日、倶知安保線管理室に勤務するJR北海道の社員が、新型コロナウイルスに感染しました。また、その影響で山線(函館線小樽~長万部間)の列車が多く運休する事態となりました。

2021.02.28

当社社員の新型コロナウイルス感染について

https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20210228_KO_coronaunkyuu.pdf

保線管理室には休憩所や宿泊所があります。これが、どうやら倶知安駅社員や山線の運転士と同じ場所のようなんですね。そのため、多くの社員が「感染リスクが高い」と判断されてしまい、影響が広がりました。

交通事業者の社員が新型コロナウイルスに感染し、通常の運行体制が取れなくなってしまう事象は、これまで都営大江戸線やくしろバスなどで発生しています。今回のJR北海道の事象は、大江戸線の「3割減」をはるかに超える事象になってしまったと言えます。もちろん、大都会の路線と新幹線開業で廃線が検討されるような閑散路線ですから、影響を受けた人数は限られますが、列車の運行が100パーセント止まった区間もあり、大きな出来事だと思います。

 

謎のニセコライナー運休

上のプレスリリースが出されたのは、228日の夜遅く、日付が変わる頃です。ところが、山線ではそれより前から謎の列車運休が発生していました。複数のツイートを引用させていただきます。

 537分、快速ニセコライナー突然の運休。「運用上の都合」とのことです。駅のアナウンスなどでそう放送されたと思われます。琴似駅の電光掲示板には、ニセコライナーの表示がなかったようです。

 この当時、Kitakaエリア運行状況には「出発前」と表示され、運休に関する案内はなかったようです。Kitakaエリア運転状況と通常の「列車運行情報」はある程度連携されているので、この時点では両方に記載がなかったことになります。

20212281816分現在

【列車への影響について】

本日(2/28)、運用上の都合により、函館線の一部列車に運休が発生しています。

・札幌 1750分 発 倶知安 行き 快速ニセコライナー : 全区間運休

・小樽 2135分 発 倶知安 行き 普通列車 : 全区間運休

 列車運行情報に「運用上の都合により」と掲載されたのは1816分。キハ201系で運行する2本の列車の運休が掲載されました。私これリアルタイムで観てたんですけど、「なんの運用の都合か知らないけど、そんな理由で1時間に1本の貴重な列車を運休するなよ~まあ宗谷線ではよくあるけどね」なんて思ってました。

 

山線での異変

さてそんな頃、山線では複数の異変が。

 倶知安駅長万部行きの列車に乗っていた方が、列車の外に放り出されています。

倶知安駅で列車から降ろされた方のツイートです。ここには最低限書かせていただきます。倶知安駅で保線員と思われる方から案内があり列車を降りた後、長万部方面の列車は全て運休、代行バス、代行タクシーもなし、乗車駅の小樽まで無賃送還されています。小樽駅では「車両の故障に伴って運用上運休が」といったアナウンスがあったようです。十分な説明がないまま行って帰って来させられるという、大変気の毒なことです。

小樽から電車が運休だったんだけど切符代でタクシー乗れるようになる神対応だった! pic.twitter.com/uy8tTAfu1C

— たる (@tartar_fed) 2021年2月28日 

一方、19:30ごろ小樽駅にいて、倶知安までタクシー代行の対応を受けた方がいます。 

・小樽 1652分 発 長万部 行き 普通列車倶知安長万部 間 部分運休

・札幌 1750分 発 倶知安 行き 快速ニセコライナー : 全区間運休

・小樽 1930分 発 長万部 行き 普通列車 : 全区間運休

・小樽 2135分 発 倶知安 行き 普通列車 : 全区間運休

・小樽 2230分 発 倶知安 行き 普通列車 : 全区間運休

 列車運行情報には、19:0019:30の間に3本の運休列車が追加。影響が山線全域にわたっています。

 

日付が変わるころ、理由が判明

2021.02.28

当社社員の新型コロナウイルス感染について

https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20210228_KO_coronaunkyuu.pdf

 午後1150分ごろ、プレスリリースが出ました。検査対象となる社員が「多数」に及ぶ、長万部~小樽間の「多くの」列車に運休が発生などとの記載が、小さくあります。どちらも具体的な数を示さない抽象的な表現です。ちなみにURLが「coronaunkyuu」となっており、JR社内にも「運休やばい」という雰囲気があったものと思われます。当時運行情報には運休情報はなく、いや〜どれほどの影響だろうかと心配しました。

は!?!?!? 大江戸線での減便は「3割」でしたから、そのような「間引き運転」を想定していました。スマートフォンを覆い尽くす運休情報に愕然。

 

まさかの午後全面運休

 運転概況の把握に役立つ資料を作成しました。自分自身、何が動いて何が止まるのかわからなかったからです。作っていくうちには?こんなに運休!?っていうのがどんどん見えてきて焦りました。午前中の中心に数少ない列車が運行された後、全面運休となります。この時点で代行バスの運行について発表はありませんでした。

個人的にはこの運休の仕方について、代行バスの確保が容易な午後を中心に運休した可能性、午後になると線路のメンテナンスが必要な時間に入るが行えず、線路の安全が確保できない可能性、午後は除雪車を運転できず、線路が雪に埋もれる可能性、の3つを推測していますが、真相は不明です。

www.hokkaido-np.co.jp

午前12分、道新の記事を発見。「函館線一部運休」という表現です。「乗務員ら約40人」との記載があります。

【バス代行の実施について】

長万部 6時05分発 小樽行き 普通列車長万部倶知安間、倶知安~小樽間バス代行

倶知安 12時35分発 長万部行き 普通列車:全区間バス代行

・小樽 16時52分発 長万部行き 普通列車:全区間バス代行

・札幌 17時50分発 倶知安行き 快速ニセコライナー:小樽~倶知安間バス代行

・小樽 19時30分発 長万部行き 普通列車:全区間バス代行

・小樽 21時35分発 倶知安行き 普通列車:全区間バス代行

110分ごろ、代行バスの案内が出ました。こんな時間に朝6時の代行バスが手配されるのは、なかなか衝撃的で、よく手配できたなと驚きました。といえども、多くも少なくもある6本です。

この頃、ツイッターではJR北海道の信頼が地に落ちた、というようなツイートが多く流れました。正直私は、え、そうなの、と少し驚きをもって受け止めました。「手稲は田舎」と揶揄される現状に問題意識を持て、という趣旨のツイートもしましたけど、内心はJRが可哀想でもありました。まあ確かに遅れ案内は雑だけど、JR北海道に対し愛着はあったからです。ボロボロの駅舎の無人駅に行っても遅れ放送がちゃんと流れることに感動したこともありました。列車接続で助けてもらったこともあります。そんなこんなで、色々と事情を知っているからこそかもしれません。

ここで私は就寝しました。なんかもう眠れなかったですけどね。 

 

翌朝の報道

山線の利用者も、ほとんどが朝になってからこの大規模運休を知ったと思われます。発表のタイミングがもう少しタイミングが早ければよかったのですが、現実には厳しかったのだろうと思います。

運転士足りず函館線で一部運休 JR北海道、社員が感染(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/97b281656f681a170a093aad6f02d94339127ca0

226分。「運転士ら社員約50人」との記載があります。運休する主な列車が掲載されていますが、大雑把すぎです。

JR社員感染で函館線の一部運休|NHK 北海道のニュース
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20210301/7000031225.html

朝。720分にWEB掲載。初めて「函館線の運転士あわせて24人」の記載があり、これ以外の人は保線社員などかと推測することができます。

 倶知安駅の張り紙。「当社社員が新型コロナウイルスに感染していることが判明し、同箇所の宿泊施設を使用していた乗務員のPCR検査を行うため」大変簡潔で分かりやすい文章です。ただし、「詳しいことはJR北海道のホームページを」とありますが、これより詳しい情報はホームページにはないようなものです。この一文はおそらく適当に添えた文章と思われますが、悪いのはこの張り紙を作った人ではなくホームページの情報提供体制です。って話を後でします。

 「当社社員の新型コロナウイルス感染の影響により」札幌駅西改札口の3画面モニターでもだいたい似た案内がされています。

"JR函館線「コロナ運休」が深刻化した背景 ローカル線の苦境が原因?識者の見解は(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース"

https://news.yahoo.co.jp/articles/70282bdb464de1a50a3821d0c6a8cd68005ef412

3月1日夜に配信された記事。今回の件で一番詳しく報じられています。「運休の原因は検査対象者が多く発生したこと、また検査対象の社員は陰性が確認され次第復帰するが、業務への復帰時期や通常ダイヤに戻る目途については不明とのことだった。」とのことです。

 

大雪の3月2日

32日は道内の広い範囲で大雪となり、「北海道内の在来線特急はすべて終日運休」というこれまでにない計画運休が実施されました。山線も全線で運休となります。なお、この日の山線の運休が、社員の新型ウイルス感染が影響しているのかしていないのかについて、発表は全くありませんでした。

 32日の倶知安駅北海道新聞の担当者が伝えています。16時ごろの時点で、3日の倶知安長万部方面の全列車、小樽~倶知安間の少なくとも2本の運休を決めています。バス代行輸送はないとのことです。

 3220時。小樽~倶知安間の一部列車運休が追加され、倶知安長万部間の全列車に運休が計画されました。

この通りです。3日の天気は基本的に曇りか晴れであり、吹雪で視界が利かない訳ではありません。除雪作業がいかに素早く終わるかが、運転再開時刻に影響します。その作業に今回の人員不足が影響している可能性があるのです。が、それについて何も発表されていません。

2021322206分現在

【雪による列車への影響について】

降雪の影響により、3/3出発分の一部列車に運休が発生しています。また、以下の区間で運転を見合わせています。

3/3 運転見合わせ】

倶知安長万部間:終日

226分に初めて倶知安長万部間終日運休が記載されました。この時間までなぜこの一文がなかったのかは謎です。

 

大雪の翌日

  33日。この方が乗車した列車は、蘭島駅や然別駅で、除雪作業の影響でなんども足止めされています。この時の天候は曇り。なぜ除雪作業が長引いたのかはわかりません。社員の新型ウイルス感染により、人員不足になっているのではないかと推測もできますが、わかりません。たぶん違うのでしょうが、確実に判断できる情報がありません。

 

事態の収束

1851分。全員の陰性が確認されたため、除雪作業による運休を除いて通常通り運行。ほっとしました。

[ 3/4 出発 ]

函館線

運休

長万部 0605分 発 小樽 行き 普通列車長万部倶知安 間 部分運休

運休区間に対して、バス代行を行います。

除雪作業が長引くタイプの運休では珍しく、バス代行輸送が行われる予定です。

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 以降、列車運行情報には「社員は全員が陰性」「山線は通常通り運行」という文が掲載されるようになりました。

なお、3/4 10:00現在このことに関するプレスリリースなどは発表されていません。そのためなのか、山線が通常運行に復帰したことを伝えるメディアは一つもありません。

 

ちなみに

これは本題とは関係のないおまけです。

 昨日の大雪に伴う除雪作業の遅れをお詫びするお知らせが掲載されました。このようなお知らせを掲載するのは最近始まった取り組みで、資料中3回も「お詫び」されています。

 「必要な車両が用意できない」ことによる運休は宗谷線などでしばしば発生しています。これまで「車両繰りのため」と掲載されることはありましたが、利用客にわかりやすい表現で伝えたのはこれが初めてと思われます。

 

さて、今回はここまでとします。次回、この事態で多数の運休が発生したことについて、利用客にどう説明したか、それに問題はなかったかを考えていきます。

 

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