もみじの研究ノート

駅名標の奥深い世界へようこそ。

山線の大規模運休と、利用者への情報提供

はじめに

この記事は、JR北海道の社員が新型コロナウイルスに感染したことを非難するものではありません。また、列車に多数の運休が発生したことそのものを非難するものでもありませんどちらも仕方のないことです。主に、多数の運休が発生したことについて、利用客にどう説明したかを取り上げ、考える記事です。2回に分けて掲載します。 前回の記事はこちら

 

今回の運休を、どのように案内したか

どのような形であれ、列車が運休することは利用客に影響が出ます。山線のような1時間に1本の路線では、とても大きなことです。今回、私は利用客への案内体制が不十分ではなかったかと感じています。

 

謎のニセコライナー運休

  • 列車運行情報への記載が遅れた

ニセコライナーの運休情報が掲載されたのは、本来札幌駅を出発した後です。おそらく大変急遽運休が決定したものと思われますが、30分近く掲載が遅れたのはどのような理由があったのでしょうか。疑問です。

 

山線での異変

  • 運休理由がまちまちであった

ニセコライナーや、運休した普通列車の運休理由について、「運用上の都合」というちょっとよくわからない表現がされました。また、小樽駅では「車両の故障」と案内されたという証言もあります。

確かに、「社員が新型コロナウイルスに感染した」という情報は、情報の取り扱いに十分慎重になる必要があります。ただし、車両の故障などと事実と異なる説明があったとしたら、それは不適切ではないでしょうか。

  • タクシー代行の基準がまちまちであった

小樽駅倶知安駅へはタクシー代行が実施されていますが、倶知安長万部方面はタクシー代行が行われませんでした。この長い区間をタクシー代行するかしないかは乗客にとって相当な負担の違いがあります。おそらく対応する規定や本部からの指示がなかったことが原因と思われます。

なお、タクシー代行は旅客営業規則に記載されている対応ではなく、あくまで便宜的なものという見方もあります。また、費用が高額になるためでしょうか、駅員の判断にも相当苦労するようです。倶知安駅では無賃送還の取り扱いが行われており、法的には対応の問題はなかったことになります。・・・が、この対応ではJRへの信頼は落ちるでしょう。

倶知安駅での駅員の対応は乗客を混乱させており、決して丁寧なものではありません。これも本部からの指示がなく、乗客の対応を駅員だけでは判断できなかったという事情がありそうです。なお、この時点で倶知安駅員も多くが勤務できない状態となっていたかもしれません。ただし、駅の放送を利用した非対面・非接触の案内などはできたのではないでしょうか。

 

日付が変わるころ、理由が判明

  • プレスリリースに曖昧な部分が多かった

検査対象となる社員が「多数」に及ぶ、長万部~小樽間の「多くの」列車に運休などと、抽象的な表現が多くなっています。また、具体的な運休列車について同時に発表されることはありませんでした。また、社員が運転士なのか保線員なのか指令員なのかもよくわかりません。これでは明日の列車にどのような影響が及ぶのか、よくわかりません。

ちなみに、JRが「多くの」列車という表現を使うことは少なく、大抵「一部」です。そこから、今回の運休は相当多いだろうと推測することはできます。

  • 運休列車の発表が遅かった

山線に大変な影響をもたらす発表です。沿線の利用者への周知を図る面でも、沿線利用者が就寝する前に発表した方が望ましかったです。運休列車の発表時分については、学園都市線最終運行を前日夜に発表するという、「できるだけ来ないでくれ」という意図を感じるような発表をしたことがありました。結果として、多くの利用者は朝起きた後このことを知ったはずです。

なお、これは必ずしもJRの対応が遅かった訳ではなく、できる限り頑張ってこの時間だったのかもしれません。が、最初の1730分の運休開始から6時間以上経ってるのを考えると、遅いなという印象を持ちます。

  • 列車がどのくらい運休するかよく分からなかった

列車運行情報にはいつものように運休列車が羅列されましたが、列車はどのように運行するのかが、全く見えてきません。そのため私とその他数名の方が、時刻表上に運休列車を表示する作業を行いました。その結果、長万部倶知安間は終日運休、小樽~倶知安間も午後は終日運休ということが判明しました。列車運行状況にこのことを書いてくれれば、わざわざ調査する必要はありませんでした。

 

これは驚いたことであり、JRの素晴らしい対応でした。夜中の1時に、6時発の代行バスを運行するめどがつきました。多くも少なくもある6本ですが、沿線には路線バスも運行されており、最低限の移動手段は確保できたと言えます。ただし、長万部倶知安行きは朝の1本のみ、黒松内蘭越間などの平行路線バスも皆無であることを考えると、もはやこの区間は全く移動できなかったでしょう。

 

翌朝の報道

  • 「函館線の一部運休」との表現が多かった

翌朝になっても、JRのホームページに「長万部倶知安間は終日運休」などとは掲載されませんでした。また、報道も「函館線で一部運休」と言ったタイトルがほとんどでした。これは、函館線が函館~旭川間であり、倶知安長万部間のすべての列車が運休しても、全体としては一部であるということが理由です。ただし沿線利用者がこの報道を見ると、事実と異なるようなタイトルになっていると感じるでしょう。

ちなみにもし倶知安駅が「ニセコ」という名前であり、かつ「大規模運休」などと報道された場合、この運休が全国的に広まり「あのスキーリゾートへの鉄道が止まった」などと拡散される可能性がありました。倶知安知名度は低く、一部運休という見出しであり、結果として誤った情報が広まらなかったことは良かったのかもしれません。ただし、それを心配して影響が少ないように見せるというのもなんか違うような気もします。

  • 人員がどのように不足しているのかがよく分からなかった

今回の事態により影響を受けた人員は、複数の報道を照らし合わせると「運転士ら社員約50人」「函館線の運転士あわせて24人」などと報道があり、「残りの26人は保線社員なのだろうか?」と推測ができます。しかし、朝の限られた時間に複数の報道を読み比べる利用者はまずいません。報道で明らかになるのであれば、JRのサイトにも同じことを書いておくべきではなかったのかと思います。「運転士がいない」「除雪作業員がいない」「指令員がいない」で、それぞれ影響は変わってくるのです。

  • 「詳しくはホームページで」が詳しくなかった

倶知安駅の張り紙には、「詳しくはホームページで」というおきまりの一文が添えられていましたが、実際にはその張り紙が一番わかりやすい内容でした。ホームページをたどっても、運行情報には「乗務員の運用上の都合により」と一言しかありませんでした。「ニュースリリース」は本来報道機関向けの情報であり、駅にいる利用客がスマートフォンであの資料を閲覧するなんて無理です。ホームページ内「新型コロナウイルスに関するお知らせ」の欄に山線運休のわかりやすい資料を掲載するなどしておくべきでした。

  • 外国人への案内がほとんどないように見えた

倶知安地区は外国語を話す方が数多く在住しています。観光需要が全くない中においても、外国語対応は必要になってくる地域だと思われます。そのような方に対して十分な情報提供があったのかは、今後の課題です。

  • 旅行客への案内も不足気味であった

この日、函館線が「一部運休」と理解して余市倶知安に行くと大変なことになります。228日をもって、札幌や小樽での不要不急の外出自粛の呼びかけは終了しています。自粛解除だ旅行に行こうと考える人の是非はおいておいて、一日散歩きっぷ倶知安地区への旅行を推奨したりしている中、こんな時期のこの曜日、この区間に旅行客はいないだろうと考えず、適切な情報提供が必要でした。なお札幌駅ではその旨のお知らせがありましたが、その他の駅ではあったのでしょうか。たぶん札幌圏全駅統一での張り紙とか、されてないようにも思うんですよね。疑問です。

  • 事態がいつ収束するかの案内がなかった

この事態がいつまで続くかについてのアナウンスは、全くありませんでした。報道機関がJRに取材しても、「不明」とのことでした。これは仕方がなかったのかもしれませんが、大江戸線ではホームページで人数などを公表しています。情報提供が不足していると言えます。

 

大雪の32

  • 大雪での運休と今回の事態に関連があるか分からなかった

32日は大雪となり、すべての列車が運休しました。また、33日も除雪作業に伴い、倶知安長万部間が終日運休。この大雪と何の関係があるんだと思われるかもしれませんが、この計画運休、特に3日は「低気圧接近に伴う輸送障害が見込まれる」ためです。つまり列車が線路に埋もれる、吹雪で前が見えなくなるという物理的な理由のほか、ポイント不転換などで列車の運行に影響を及ぼし、乗客の安全が確保できないといった理由も含まれます。ポイント不転換の解消には保線作業員がたくさんいてすぐに対応できれば解消することであり、それが人員不足でできなくなっている、などということがあれば、関係があるのです。それを判断する情報が、ホームページ上で全く提供されませんでした。

 

大雪の翌日

  • 間引き運転の理由がよく分からなかった

これは間引き運転全体に言えることでもあります。大雪の翌日も小樽~倶知安間では間引き運転が実施されました。これも今回の事態による人員不足が関係しているのかいないのか、十分な案内がありませんでした。

 

事態の収束

  • 「全員の陰性が確認」はわかりやすく掲載された

この案内は、列車運行情報にわかりやすく掲載された唯一の内容です。これにより、利用客も初めて「列車運行情報」の確認だけで、事態が収束しもう影響はないことが理解できます。

  • 事態の収束が全く報道されなかった

全員の陰性が確認されたことについて、プレスリリースなどは掲載されませんでした。そのため各メディアも知らん顔。全くと言っていいほど報道されていません。記者たちは列車運行情報も全く確認していないんだな、ともなりますし、いつから通常運行となったのか、後世に記録が残らないという懸念もあります。

 

他社の案内をちょっとだけ比較する

他社の案内の例として、都営大江戸線札幌市営地下鉄南北線を比較します。ちょっと調べたことだけで比較します。ちょっと調べただけで十分な情報が出てくるということは、その会社の情報提供体制は充実しているということです。

都営大江戸線の例

検索するワードがちょっとアレですが、「大江戸線 コロナ」で検索すると、以下の2つが見つかります。

新型コロナウィルスに関する都営交通の対応について | 東京都交通局

https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/corona/

交通局職員の新型コロナウイルス感染について | 東京都交通局

https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/pickup_information/news/subway/2020/sub_i_202012319488_h.html

 上の「新型コロナウイルス感染症に伴う都営交通の対応」を見ると、現在「新型コロナウイルス感染症に伴う運休等はない」ことがわかります。

また、下の「交通局職員の新型コロナウイルス感染について」を見ると、感染した職員が何人いるのかなど、詳しい情報が掲載されています。

 

減便発生当時

大江戸線での減便発生当時の「東京都交通局トップページ」のアーカイブを見ると、「大江戸線の運行予定について」がトップに掲載されています。

大江戸線の運行予定について 緊急ニュース | 東京都交通局

http://web.archive.org/web/20201230062719/https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/emergency/20201228205255136.html

ここには大江戸線の運行状況のみが掲載されています。

 

下部に行くと「トピックス」に、次のお知らせが掲載されています。PDF形式ではなく、スマートフォンでも見易いものとなっています。

都営地下鉄大江戸線の運行について | 東京都交通局

http://web.archive.org/web/20201229040454/https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/pickup_information/news/subway/2020/sub_i_202012269484_h.html

 乗務区でどのような対応をしたのかなどについても、細かく掲載されています。

南北線の例

南北線で発生した異例の出来事といえば、北34条駅の漏水です。「南北線 漏水」で検索すると、2番目に下のサイトが見つかります。

南北線北34条駅浸水に伴う各種対応について/札幌市交通局

https://www.city.sapporo.jp/st/unnkyuu/r021214_nambokuline.html

 これを見ると北34条駅を利用する場合にどのような影響があるか、現在どのような作業をしているかなどが項目別に記載されています。

この事象では、漏水の発生直後からとても詳しい情報提供がなされていたと思います。これ以外のページに飛ぶ必要がないんですね。

このように、他社では細かい情報提供がなされています。この2社は公営交通だからという見方もできますが、利用客にとってそんな違いがあっては困りますし、同じ公共交通機関ですから同じだけの情報提供をしてほしいと思います。

 

JR北海道もわかりやすい情報提供を

JR北海道にも「新型コロナウイルスに関するお知らせ」のページがあります。「JR北海道 コロナ」で検索すると、一番最初に下のサイトが出ます。ちなみに、山線の運休は私の場合は、5番目くらいにNHK朝日新聞などのニュースがヒットします。

新型コロナウイルスに関するお知らせ|お知らせ|JR北海道- Hokkaido Railway Company

https://www.jrhokkaido.co.jp/korona/

このページ、今回の事態が発生しても全く更新されることがありませんでした。

今後、JR北海道の記者会見などの機会があると思われますが、会社は今回のような事態をどの程度想定していたのか事態が発生した後の対応は適切であったか、しっかりと検証してもらいたいと思います。

今回十分に情報が開示されなかったのは、事態がおおごとになって拡散されることを避ける狙いがあったのか。そうであれば少し残念です。この社会が「批判が怖いから、新型コロナウイルスに感染したことを言い出せない社会」だということになります。望ましくありません。感染したことを批判したり、誹謗中傷する人が悪いのです。また、感染症拡大防止と乗客の安全のために行った、今回の大規模運休そのものを批判することもあまりできません。それ以外にやりようがありません。(やりようがないというのは、他の部署から人員を集めることなんて無理だろうなと察せるからです。これは一般客にも周知されているとはいいがたく、情報周知が必要かもしれません)

ただし、今回の事象を、倶知安駅で「クラスターが発生した」といった事実と異なる情報が拡散したのも事実です。私もなんとなく、全員が「感染」して業務できなくなったんだな」なんてイメージを一時持ったりもしました。人々の受け止め方にそのような点を踏まえる必要があるのは難しいところです。

公共交通機関の運行、場所によっては「地域唯一の公共交通」(タクシーを除く)が失われた今回の事態。これはどこでも、交通以外のどの業界でも起きうることです。今回の件を教訓にし、同じようなことが起こらないようにして欲しいと思います。お金もないなかやれることは限られていますが、できることはあるはずです。

そして今回、報道機関があまりにこの問題に無関心な気がしてなりません。この事実を伝え、教訓にすることができるかはメディアにかかっています。私のような個人が出典のない記事をこうやって書いても、ほとんど生かされません。内容の信頼性が担保できる報道機関に、ぜひ今回の事態を検証してほしいと思います。