もみじの研究ノート

駅名標の奥深い世界へようこそ。

養生テープで貼られたすすきの駅の看板

結局札幌の地下鉄は変わらず張り紙を張り続けるなぁと思って投稿したら、なんか炎上してしまいました。お騒がせいたしました。

問題の看板

さてこの看板、ガムテープではなく養生テープで貼られているとのご指摘を多数いただきまして、近いうちに剥がされるのではないかと予想された方もいらっしゃいました。張り紙の内容からはそうは受け取れないだろうと思っていたのですが、ここにこの看板の本質があるのでは?ということに気づき、一つの記事になるのでは?と思いつきましたので、書きます。

正直なところ、この数時間はどうやってもこの看板のことが頭から離れません。それは逆手に取り、どうせだったら趣味を深める題材にしよう、という自分なりの消化方法です。すすきの駅のリニューアルの話題はいつか記事にまとめたいとも思っていましたので、ちょうどいい機会ですね。

 

看板の内容

看板には次の内容が書かれています。

お願い

当駅は、23時以降大変混雑しますので、早めに乗車券をお買い求めの上、ご乗車くださいますよう、ご協力お願いいたします。

はい。札幌市民の方であれば分かっていただけると思いますが、ある意味「この駅定番」の看板です。この駅に前々からある看板であり、もはやこの看板がすすきの駅らしさを引き立てているとまで言えそうです。

この看板の歴史

すすきの駅 昭和 とかで検索しても何も写真が出てこないため、この看板の歴史を深くたどることはできませんが、一つ言えることは「早めに乗車券をお買い求めの上」という表現の古さです。ICカードSAPICA」がなかった時代からあることはほぼ確実です。まさかウィズユーカードがなかった時代からの表現とも思えてきます。どうなんでしょうね、これは私にはわかりません。昭和のすすきのの風景を知っている方は多いでしょうが、この看板の存在まで覚えてくれている方はどれほどいるのでしょう。

2017年10月

手元に2017年の写真がありました。あぁ~ゴシック4550~は今回置いておきまして、今回注目している看板は右側にかすかに写っています。これ、拡大すればわかるのですが、ラミネート加工した紙などではなく、ちゃんとしたプレートなんですね。フォントも新ゴです。サインシステム準拠とは言えないものの、ちゃんと作られていた看板だったのです。

ちなみに、その上には「出口2→」の野良サインがあります。

2020年7月

ラフィラ閉館直後の5番出口。今回の看板の左側の柱を中央に写しています。よく見る禁煙看板と、「お知らせ 駅構内や地下街では、物品のセールス、スカウト、アンケートなどの行為を禁止しております。このような行為には応じないよう、ご注意願います」の張り紙があります。こちらはプレートではなく簡素なものです。そうそう、「駅構内や地下街では」と併記するのは大通・すすきの特有です。さっぽろ地下街の存在感を感じます。セールス、スカウトという文字の並びも目につきます。

2021年1月

その後完全に閉鎖された姿。私がこの看板を一番鮮明にとらえた画像はたぶんこれです。いや~撮ってるようで全然撮れてないんですね。改めて思います。閉鎖後もこの看板部分は隠されず、生き残っていることが分かります。

2023年8月

約2年半が経ち、コロナで唯一凍結されなかったすすきの駅のリフレッシュ事業が行われることとなります。これは2023年8月下旬に仮設サインが登場した時のもの。まさか左下に注目することになるとはね。

上も簡単にコメントしておきます。英語も新ゴというやりがちなミスをしています。そして市電のりばの英語小さすぎ!あと市電のピクトグラムがなんか変なんですよ。元のサインでは見なかったタイプです。

で、今回注目するのは下です。文章はそっくりそのまま、新しい紙に張り替えられています。上なんて全く同じ?いや、英語がちょっと違うように見えます。この流れ、札幌市営地下鉄の看板オタクならおなじみといえる流れです。

 

同じ表記を再現する原則

札幌市営地下鉄の駅で工事をする際、壁面などにある標識が工事の覆いによって隠れる場合、代替の看板が設置されることが多いです。たぶんそういうルールがあるのでしょう。そして面白いことに、隠された看板のデザインを忠実に再現し、(フォントだけ変えて)設置されることが多いのです。

そのため、開業当初の看板が隠れる場合、開業当初のデザインを再現します。その結果、数年前のさっぽろ駅では矢印が赤色の野良サインが出現したことも。上の路線図は再現する看板の中でもかなり労力を使ったと思われる営団風路線図です。

この再現看板、フォントは毎回MSゴシックとかなんですが、かつてのサインシステムが現代に生きているような雰囲気を味わえるのでなかなか面白いんですよね。新ゴで登場し、我々を驚かせる工事もたま~にあります。

で、今回も例のごとく、仮設の看板が設置されたというわけです。

工事を経て

11月中旬、COCONO SUSUKINOのオープンを目前に控え、工事も大詰めを迎えます。

2023年11月26日

これは26日に撮影したもの。いよいよCOCONO SUSUKINOの文字も光り、期待が膨らむ頃です。ところで吊り下げサインの隠された「十字街ビル」の文字、変更間に合わないんですか?情けないなぁ。

そして中央下部。白く覆われたさらに上に、例の看板があることが分かります。あれ?出口2→は?・・・この時点で欠落したようです。こういうこともあるんですね。

2023年11月28日

はい。こうして変化をたどると、白い覆いが外され、養生テープの緑色が目立っていることがはっきりと分かります。そりゃ私の目に留まるわけだ。

ちなみに言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、養生テープとガムテープを間違えたことは一応指摘される前から気づいていました。ただあのツイートも、張り紙がガムテープで貼られているように見えたことからガムテープでベタベタという言葉が出てきたのであり、そう見えた時点で美しくなんかないのです。

養生の理由

当初、私はこのサインについて、恒久的に掲出する内容の看板を、なぜこんな貼り方をしたのか、と考えていました。一時的な案内ならまだ分かります。いつまでも貼っていそうな内容なんですよ。でも「すぐ剥がされるのではないか」と予想する方もいました。この内容がすぐ剥がされる・・・?

あ。

この柱の「管轄」です。

この柱、交通局とビル、どちらの管轄なのか。それによって話が変わってくるのです。交通局の構内図を見たところ、ピンクのエリアが斜めにひかれるという、何ともあいまいな書かれ方をしています。これは札幌市の公式文書を見てみるしかない。ということで今日は見ません。が、これまでは交通局の張り紙がベタベタ貼られてきた通り、基本的には駅の管轄、というような見た目をしていました。が。上の写真の右側をご覧ください。

おしゃれですね

今回COCONO SUSUKINOは駅利用者に向けてこんな置き土産をしてきました。切り文字によるエレベーター・化粧室のピクトグラム表記です。こんなおしゃれな表記、絶対交通局はやらない。ので、COCONO側の整備であることは確実です。(ところでこれ、わざわざ「化粧室」表記。え?COCONO作成だよね??)

とすると、あの養生テープで貼られた看板は、交通局の看板がCOCONO側の敷地にお邪魔している形になるのです。

というわけであの看板は、工事の際に同じ表記の看板を作るという原則に従って、工事終了の際も看板を捨てないことになった→でもこの場所はリニューアルでCOCONO一色の木目調になった→あれ?ここに貼っていいのか?とりあえず養生で貼っておこう、というのが実態ではないか、と、今は推測しています。

ちなみにもう一か所、この場所の奥に「出口5」という表記が~という話もしたいですが、時間がないので省略。

 

額縁に入れるべき

例のツイート、引用欄でもうなんか色々言われておりまして、「この張り紙を額縁に入れてほしいのか?」というようなコメントもいただいております。これが意表を突く表現でありまして、その通り、駅に貼るサイン類は「額縁に入れるべきか」を基準に考え、本当に必要なら額縁に入れるべきなのです。

しかも、これはすでに行われています。駅のコンコースで天井を見上げてみてください。多くの駅の吊り下げサインは、電照式で高額な「額縁」に入れられています。これと同様に、壁面のサインも「この看板は額縁に入れるべきか?」を考えると、自ずと無駄な看板は減り、最低限の表記に洗練されていくはずなのです。

COCONOが設置したピクトグラムも、「額縁に入れる」並みに凝って作られていますよね。大げさな表現だけど、あながち大げさではないかもしれません。

 

最後に

今回の件、「それはガムテープではなく養生テープです」と指摘される方があまりにも多すぎました。間違えたのはお恥ずかしい限りなんですが、論点そこじゃないんだわ。鉄道オタクが「それは電車ではなく気動車です」と指摘するわずらわしさとはこのことか、と実感しました。もう、ね。日々の生活では気を付けていきたいものです。そしてこちらも「この柱は交通局のものなのか、ビルのものなのか」みたいなおかしなことばかり考えているということは踏まえる必要があるなぁ、とは思っています。ちなみにあのあと養生テープの基礎知識を調べてみたら意外と知らなかったこともあって、たいへん勉強になりました。

自分の考えをもう一度示しておくと、冬季のオープンということもあり、多くの人にとっての玄関口であるCOCONO SUSUKINOの地下入口に、外部である交通局によってあんな張り紙が貼ってあるのは実に景観破壊です。とりあえず場所を移すとかして、なんとかしてほしい。

さて、この張り紙、否が応でもしばらくは動きを見続けることになりそうです。野良サインとは言えど、すすきの駅のあの何とも言えない雰囲気を作っている看板でもあるので、あの場所にはいらないとは思いますが、消えたら寂しいですね。

そして、あの場所にあの看板があるのは実は伝統を受け継いでいる側面があることが今回分かりました。歴史的に見れば、あの場所に残ってもいいのかもしれません。これを知れただけでも結構満足感があります。試運転の運用に熱い視線を送る人がいるのと同様に、このサインはこういう歴史を持ち、こういう場所で、こういう運用をされているんだ!という、そういう趣味をしています。