もみじの研究ノート

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札幌市営地下鉄のサイン 5 東豊線開業時のサイン

こんにちは。今回は久しぶりに札幌市営地下鉄のサインについて。本当はJR北海道のトイレを研究したりしたいんですけど、当分の間はいま書きたいものを書くという方針で進めます。このブログの2大テーマの1つ、札幌市営地下鉄のサイン。これから紹介するゴシック4550のサインが終われば、少しずつ終わりが見えてくるような気がします。書き終えるのは一体いつになるでしょうか・・・

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地下鉄案内標識設置要領の制定

札幌市営地下鉄のサインの歴史を調べていると、「地下鉄案内標識設置要領」の単語がいくつか出てきます。

詳細は不明ですが、1985年(昭和60年)に制定されたようです。これは1982年東西線延伸の3年後、1988年東豊線開業の3年前にあたります。中身についてほとんど情報は得られませんが、「出口案内には、国道などの主要な通り、官公庁、学校、公共施設、出入口からおおむね100メートル範囲のホテルや銀行、金融機関のような主要なランドマーク的施設などを案内する」などの規定が定められているようです。今でいう「サインマニュアル」ですね。おそらくゴシック4550が使われ始めたのもこの時なのだと思われます。

1985年に制定されたこの設置要領は、改訂を重ねつつ2005年時点では確実に、そして2018年時点でも同じ名前の設置要領が使用されていたようです。古すぎるのでは?とも感じますが、実際に駅を見ても確かにそんな雰囲気が感じられます。

なお現在は役割が「 地下鉄駅案内サインマニュアル」に置き換わっているものと思われます。

 

1988年の東豊線開業

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東豊線大通駅はゴシック4550に囲まれる魅惑の空間(2021年1月)

1988年、第2南北線として建設された東豊線が開業しました。開業時から駅構内とホームにLED表示機を設置するなど未来的な地下鉄だったことでしょう。駅構内のサインには本格的にゴシック4550が登場。札幌市営地下鉄の中で最も採用年数が長いサインは東豊線から始まったと言っても良いでしょう。

 

ゴシック4550とは

東京・営団地下鉄のサインのために設計された書体です。1970年代当時、営団地下鉄では多数のサインが入り乱れており、乗客への分かりやすい案内はできていない状況でした。改善策として駅のサインを「システム化」するという結論にたどり着き、1972年に大手町駅で試験的なサインの設置が行われました。そのときに使用された書体です。このサインは好評であり、のちに営団地下鉄の全駅でこのサインが整備されました。詳しくはこちらのサイトなども参考になります。

赤瀬達三さんの書籍「駅をデザインする」で紹介されていましたが、のちに営団地下鉄は、自社のサインマニュアルを全国各地の地下鉄事業者に無償で提供したそうです。札幌もその一つと考えられ、実際、東豊線の駅では営団サインのような看板が多くみられます。

ちなみに北海道では、札幌市営地下鉄のサイン、郵便局のほか、新得駅こ線橋の「おつかれさまでした」の看板、新さっぽろ脳神経外科病院の看板の「新さ」の部分(間違いの可能性あり)、倶知安町内の飲食店の看板などで見ることができます。他にも街の隅々までを観察すればまれに見つけることができ、札幌市北区内の駐車場で見つけたこともあります。

 

札幌版 ゴシック4550のサイン

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東豊線大通駅は、構造・サイン共に他線に比べて簡潔(2021年1月)

ここでは、東豊線開業のころの初期タイプを紹介します。20年以上続くゴシック4550のサインでは初期タイプにあたるもの。札幌市営地下鉄でも代表的なサインの一つです。 

 

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東豊線 さっぽろ駅(2015年12月)

もう一点特筆すべきは、電光掲示板と方面サインを一体化させたこと。通常日本では電光掲示板とサインは施工会社が異なることから、ホームでも別の場所に設置されることが一般的で、実際に札幌でも南北線では一体化されていません。東豊線では新規開業路線であることを生かし、方面サインや時計との一体化を実現し、より分かりやすい案内となりました。

なお2016年の電光掲示板の更新の際、方面表記は非電照式かつ小さな表記にされてしまい、方面サインとしては存在感が弱くなりました。「栄町行」「福住行」の水色LED表記が常に表示されることで補っているものの、もう少し工夫の余地があったのではないかと思わざるを得ません。デザインやフォントは文句なしなのですが。

ちなみに電光掲示板と方面サインを一体化した鉄道会社は、他に2004年開業のつくばエクスプレスなどが有名ですね。

 

4550初期タイプの特徴

ゴシック4550初期タイプに見られる特徴について。矢印はこれまでと大きく変更され、現在のJIS規格と似た矢印サインが使われていますが、矢印が若干太いことが特徴です。営団サインは当初非常に太い矢印サインを採用していましたが、それほどではありません。

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2021年1月撮影・東豊線大通駅。化粧室など、鉄道利用に直接関係のない施設は小さめに表記されることもあります。また、ピクトグラム外枠がないことも特徴です。これも営団サインと共通の特徴です。また、南北線が「Nanboku Line」東豊線は「Tōhō Line」と表記されますね。

 

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ちょっと懐かしい写真を。2017年8月のさっぽろ駅です。275m先の表記が特徴的ですね。このサインは優秀で、現行サインの表記よりも文字組が美しいんですよね。変わってしまって大変残念です。

もう一つ注目したいのがピクトグラム。2000形をモデルにしていますが、市章の星マークが描かれるようになったのはこのサインからと思われます。それまでは省略され、六角形の枠のみが描かれていました。

 

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2017年9月撮影・新さっぽろ駅8番出口。1990年6月に新設されたとされます。現存するゴシック4550サインの中でも最も見応えのあるサインの一つと感じます。新さっぽろ駅を訪れる機会がありましたら是非。ちなみにこの場所、2階に地下鉄の筐体+駅ビルDuoデザインのサインという珍しいサインもあります。

 

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2017年8月の環状通東駅。きっぷうりばと駅事務室が1枚にまとめられている異色のサインです。注目してほしい特徴はピクトグラムがないこと。この時点でのサインでは、ピクトグラムは化粧室やエレベーターなど最低限にとどまりました。このタイプまでの特徴です。

 

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2021年1月撮影・豊水すすきの駅。この年代のサインで比較的比較がしやすいのはエレベーターサインだと思っています。まずエレベーターが現在に通ずる「箱」が上下するデザインであること、ピクトグラムの矢印が丸みを帯びていること、さらに外側の白い枠が四角形と角ばっていることが特徴です。

なお島式ホームの駅において、これまで東西線などではホーム中央に大きな「エレベーター」のサインが1枚掲出されましたが、このタイプからはホーム端に小さなサインが2枚掲出されるようになりました。これにより、電車を降りたあとどの位置からでもエレベーターの位置を見つけやすくなりました。

なお、東豊線開業当時はエレベーターのピクトグラム車椅子マークが描かれた別のもので、詳しく調べてみると、1994年7月の栄町駅では旧ピクト、1994年12月の豊水すすきの駅では新ピクトの写真が見つかりました。一度ピクトグラムのみ、または板ごと交換されたようです。私はピクトグラムのみ交換したと考えており、その関係で白枠が角ばっているのだろうと思っています。

 

ちなみにこのころの「出入口案内表示板」はこのようなもの東西線新さっぽろ延伸時のものと比べ、英語表記がついたこと、フォントがゴシック4550になったこと、「地下鉄」が営団地下鉄のようなフォントになったことなどが挙げられます。営団のサインシステムが全国に配布されたこの時代、全国各地の「地下鉄」表記をこのフォントにしようという試みがあったのかもしれません。

 

設置時期と設置駅

1985年に制定されたと思われるこのサインは、1988年の東豊線栄町~豊水すすきの間開業時、各駅に標準設置されました。それ以外では、東豊線との乗換駅である南北線さっぽろ駅くらいでしょうか。1990年6月にDUO1開業に伴い新設されたと思われる東西線新さっぽろ駅の8番出口、この時代に多目的トイレが設置された駅、この時期に新設された出入口にも設置されていることがあります。

現在、さっぽろ駅ではコンコースのすべてのサインが交換、その他駅でもそのほとんどが非電照化され、まとまって残る駅は大通駅くらいとなっています。

 

このサインは小幅な変更を経て、最終的に2010年ころまで使い続けられました。いま見ても完成度が高いサインであると感じますし、札幌市営地下鉄でも代表的なサインだと感じます。現在最も多く残る大通駅ではサインの更新が進んでおり、残りのサインもあと数年と思われます。お早めに。

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栄えあれ4550。